名古屋高等裁判所 昭和32年(う)965号 判決
よつて記録を調査するに原判決は「被告人はその所有にかかる半田市字本田三番地の二所在の織布工場内にあつた平野式十八吋力織機がいずれも国税滞納処分によつて所轄税務署から昭和三十年九月十九日差押えられた物件であることを知りながら、加藤護と共謀の上昭和三十一年二月下旬頃他の織機と交換及売買する契約を結びその後二回に亘り差押物件である右織機十台の授受をなしこれを同市字蓮池一番地久田久次郎方等に搬出し、以て半田税務署大蔵事務官井上通至の施した差押の標示を効なからしめたものである」と判示している。しかし記録によると右差押物件たる織機については所論の如くその差押前から工場建物と共に工場抵当法第二条により豊島株式会社の為に抵当権が設定されていたことは明であるから右織機は同法第七条第二項によつて本来、工場建物と共にするのでなければ差押の目的とすることは許されないものと謂わねばならぬ。したがつて右織機に対する国税滞納処分による判示動産差押は違法であつてその効力がないから、かかる無効の差押の標示については封印破毀罪の成立の余地なきことまことに所論の通りである。尤も右差押物件は記録によるとその後さらに被告人の判示搬出前工場抵当法によつて差押えられた事実が窺われるが、この不動産差押によつてさきに行われた無効の動産差押が原判決の論及しているようにその効力を有するに至るものとは解し難い。結局論旨は理由があり原判決は法令の解釈適用を誤つた違法あるものとして到底破棄を免れないので刑事訴訟法第三百八十条第三百九十七条により原判決を破棄するが本件起訴状記載の公訴事実はその公訴の範囲内において訴因の変更あるときは工場抵当法第四十九条第一項違反等の成立する疑なきに非さる案件であるからこの点につきさらに審理を尽くすべきものとして刑事訴訟法第四百条本文前段に従い本件を原裁判所である名古屋地方裁判所に差し戻すこととして主文のとおり判決する。
(裁判長判事 吉村国作 判事 中浜辰男 判事 成田薫)